バアル(聖書ヘブライ語: בַּעַל、フェニキア語: 𐤁𐤏𐤋 ba‘al、ウガリット語: 𐎁𐎓𐎍 b‘l)は、カナン地域を中心に各所で崇められた嵐と慈雨の神。その名はセム語で「主」、または「主人」「地主」を意味する。バールや、バビロニア式発音のベール(アッカド語: 𒂗)、およびベルとも表記される。
歴史
メソポタミア北部からシリア、パレスチナにかけて信仰されていた天候神アダドは、ウガリットではバアルと同一視されていた。アダドはシリアではハダド、カナンではハッドゥと呼ばれ、バアルとハダドはたびたび関連づけられていた。
バアルの名はすでに前3千年期初頭の中近東の文献に登場するが、バアルが最もよく知られているのはウガリット文学(前1250年頃)において果たしているその顕著な働きを通じてである。
バアルは本来、カナン人の高位の神だったが、その信仰は周辺に広まり、旧約聖書の「列王記」上などにもその名がある。また、ヒクソスによるエジプト第15王朝・エジプト第16王朝ではエジプト神話にも取り入れられ同じ嵐の神のセトと同一視された。フェニキアやその植民地カルタゴの最高神バアル・ハンモンをモレクと結びつける説もある。さらにギリシアでもバアル(古代ギリシア語: Βάαλ)の名で崇められた。足を前後に開き右手を挙げている独特のポーズで表されることが多い。
ウガリット神話におけるバアル
ウガリット神話では最高神イルの息子と呼ばれる。またダゴンの子バアル(b‘l bn dgn)とも呼ばれる。勝利の女神アナトの兄にして夫。聖書などではアスタルトを妻とする解釈もある…